トルコは、旅をするにはとても面白い国です。
混沌とした活気ある都会のイスタンブール。
お金持ちそうな観光客を狙って、限りなく執拗にくっついてくる、
インチキくさくも、どこか憎めないトルコ人の存在にもすっかり慣れて、
ブルーモスクやアヤ・ソフィア寺院、バザール、ハマム、
トルコ料理、トプカピ宮殿などを満喫した後は、
トルコの大自然を感じられる他の町に旅に出たくなります。
古いベンツの長距離バスで約10時間かけて、
カッパドキアという町に向かいました。
約300万年前に起きた火山の大噴火で、長い長い年月をかけて
溶岩流と火山灰が造りあげた神秘的な大奇岩群の連なる、
映画スターウォーズの舞台ともなった幻想的な景観に出会える町です。
長距離バス網が大変発達しているトルコでは、イスタンブールや
アンカラから各地方都市へ、または地方都市から地方都市へと
行きたいところは大抵どこへでも、比較的安い金額の
長距離バスで辿り着くことができます。
しかもサービスも文句なく、バスが発車してからは、
チャイやコーヒー、コロンヤという香水を
振りかけてくれるサービスやお菓子や軽食のサービスなどがあり、
目的地に到着するまで、かなり快適な旅気分で過ごすことができます。
けれど、この素晴らしいサービスを逆手にとって
悪質な盗難が大流行りでした。
トルコの長距離バスを利用する人なら誰でも注意しなければ
いけないものといえば、
「睡眠薬入りビスケット」
バスの後部座席にすわっていて、添乗員を装って、
車内後方から、チョコレートクリームがサンドされている
ビスケットを「いかがですか!?」と薦めてくる。
誰しもがてっきり添乗員だと思っているので
「あ、どーもどーも!」とこのビスケットを頂戴し、
パクリと食べてしまうのだが、
このビスケットの“チョコレートクリーム”のあたりに睡眠薬が
こんもり注入されていて、長距離バスに乗車している間、
曝睡している乗客のバックやポーチやポケットから
財布やパスポートやカメラなど盗んで、次の休憩所あたりでさっさと
降りて姿を消してしまうような悪質な盗難事件が多発していました。
外務省から発出されている海外危険情報では、「昏睡強盗」と呼ぶそうです。
このビスケットに遭遇した日本人の知人が、2人いました。
1人は、カッパドキア行きのバスに乗車したときに乗り合わせた
24歳の日本人の男性です。
どの休憩所についても一向に起きず、泥のように曝睡しているなぁ、
と思っていたら、目的地に着く少し手前の休憩所で
ウェストポーチの中に入っていたはずのパスポートとお財布が
こつ然と姿を消していたことに気がつき、青ざめていました。
まだ眠さの残る頭を酷使して、記憶を辿ると、どうやら乗車後に
ビスケットを薦められて、
「あ、どーもどーも!」とパクリとやってしまったらしく、
もちろん「睡眠薬入りビスケット」の話は、散々聞いて知っていたけれど、
自分がビスケットをもらった時、まさかそれが睡眠薬入りだとは
疑いもしなかったようで・・・。お気の毒さまです。
さて、その睡眠薬入りのビスケットの威力とは・・・・
別の友達は、もっと面白い事件がありました。
やはり長距離バス内で後部座席の方から、チョコレートクリーム入りの
ビスケットを配られたので、とりあえずは、ありがとうございます、
と言って1枚もらいつつも(絶対に食べるものか!)と思って、
ティッシュペーパーにくるんで持ち帰ったそうです。
イスタンブールの宿に辿り着いたあと、ドミトリーという4、5人で部屋を
シェアするような安宿で一緒になった日本人同士4人で、
その怪しいチョコレートクリーム入りビスケットを食べてみようか、
ということになったそうです。
丁寧に4つに割って、4人で同時にいただきまーす!と
そのビスケットを食べたところ、
コテーンとそれぞれのドミトリーのベッドで全員そろって
曝睡を開始し、ひとしきり眠りに落ちたあと、おもむろに起き上がり、
たった4分の1のビスケットに入っていた睡眠薬の効き目の良さに
震え上がったそうです。
そんな「昏睡強盗」が流行っていたので、
トルコでサービスされる飲食物にはすべて疑いをかけて
ただで提供されるものは絶対食べない!!と言い張る旅人もいました。
けれど、もし、チャイ(紅茶)がサービスされた場合については、
どうかご心配なく。
チャイをご馳走になっても、チャイに睡眠薬が入っているなど
ということはないばかりか、チャイをご馳走になった先で強盗などの
被害に会った話を聞いたことがありません。
バスターミナルの待ち時間にも町中の商店にふらりと寄った時にも
絨毯屋さんでも、もちろん長距離バス内では絶え間なく振舞われるし、
旅の間に出会った気のいいトルコ人がよくご馳走してくれたりと、
チャイは、トルコ人にとっても、客人や異邦人を迎え入れる「心」そのもの
であり、心と心をつなぐ大切な飲み物なので、冒涜できないのです。
もし、これからトルコを旅行されることがあったとき、
例えそんな悪質な犯罪が起きることがある土地に行っても
本当に心あたたかい人々まで疑うのはあまりにも寂しいことです。
ビスケットだろうがなんだろうが、
ただで振舞われるものはお断り!と警戒したとしても、
どうかチャイのおもてなしに出会った時は、心の壁を取り除き、
リラックスした柔らかい気持ちで、心と心をつなぐ時間を
大切に共有して欲しいな、と思います。
とはいえ、皆さん、く・れ・ぐ・れ・も、
チョコレートクリーム入りビスケットにはご用心ください!! |