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オペラティーコラム Vol.7 2005年4月1日 それぞれの国の味覚


数年前になりますが、パリのホテル・クリヨンにある
『レ・ザンバサダー』というレストランの厨房で、半年ほど
スタージュ(見習い修行)をしていたことがあります。

見習いの成果によるわたしの料理の腕がいかばかりかということは、
また今度お話させていただくとしまして・・・

そのレストランの厨房では、シェフの元で17人の料理人たちが、
1分1秒を争う絶妙なタイミングと温度で、お客さまに美味しい料理を
召し上がっていただくために、きびきびと真剣に働いていました。

お客さまが来店されると、サービスの人間が、料理の注文を取って、
厨房にやってきて、シェフのもとにその伝票を届けます。

ある日のこと、日本人のお客さまが来店された時のことです。
いつもは、お客さまの人数とご注文の品を読み上げるシェフが
いつもの読み上げ方と違って、こう言うのが聞こえました。

「ドゥークーヴェール、レジャポネ・・・(日本人、2名さまぁ〜)」

なぜ、わざわざ国籍をいわなくてはいけないのだろう!?

とわずかに胸騒ぎを覚えました。

パリに住んでいたころ、本当にさまざまな国籍が混然としている
国際色豊かなその土地に、どうしても差別的な感覚があることを
否定できないと感じていたことがありました。

異文化が上手に融合している部分は本当に素晴らしいのですが、
やはり異なる人種の分だけさまざまな価値観があり、また経済事情の差による
生活レベルの違いがあり、人々がその「違い」を受け入れて
共に生活していくということが、どれだけ難しいか、ということを
理解することすら「難しい」のでした。

どこを見渡しても人々の黒髪ばかりが見渡される日本で生まれ育ってきた
私には、1年、2年では理解できるわけもなく、
社会の構造や歴史も理解せず、ただ「差別はいけない」と
オウムのように繰り返しているばかりでした。

けれど、パリにおいては、アジアという異文化圏から来ている自分自身が、
「アジア人差別」を受けていると感じることもありました。
ちょうど差別ということに敏感になり始めていた時期でもあったので、
「日本人、2名」が何を示しているのか、大変気になったのです。

けれど、そんな一瞬の心の葛藤が、一気に吹き飛ぶシェフの一言が、
最高の料理を仕上げるべく1分1秒を争って張り詰めている厨房内に
響き渡ったのです。

「ゆっくりふってくれ!!

塩と胡椒をゆっくり振ってくれ!
入れすぎてはだめだ。

油やバターも控えめにな・・・

日本人は薄味が好きなんだから。」

そう、このホテルレストランには、世界各国からお客様が集まる
ので、各国の味覚の特徴を理解して、できるだけ、お客様の育ってきた
国の味覚に合わせた上で最高の料理を出すよう心掛けていたのです。

料理人がお客さまに出す料理に対する真剣な姿と、
それぞれの国の味覚について勉強し、それを柔軟に取り入れようとする
シェフの姿勢にただただ感動したのでした。

そして、日本人のお客さまに出される料理には、
料理人のしなやかな腕の動きで、ゆっくりと塩と胡椒がふられるのでした・・・。


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