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ティーカップの中のオペラ

スペシャルコラム Vol.5 2005年3月1日 ヴィオレッタ


2月のパリは寒くて暗く、気が滅入る。
だからこそ春の訪れを待ち望むカーニバルが陽気に行われるのだけれど、
1847年の2月、その賑やかなお祭り騒ぎの最中、
マリー・デュプレシ(本名アルフォンシーヌ・プレシ)はパリのアンタン通り9番地で
ひっそりと息を引き取った。享年23才。彼女こそはデュマ・フィスの小説『椿姫』の
マルグリット、ヴェルディのオペラ『ラ・トラヴィアータ』のヴィオレッタの
モデルとなった女性。

『ラ・トラヴィアータ』とは「道を踏み外した女」という意味。
ヴィオレッタはパリでも屈指の高級娼婦。そもそも娼婦である事が
人の道を踏み外している、いやいや娼婦が真実の愛に目覚めてしまった事を
指すのだ、と見解は色々。
それにしてもヴェルディったら随分厳しいタイトルをつけたものだわ。

いえいえ、厳しかったのは世間の目。
このオペラを作曲していた頃のヴェルディにはストレッポーニという愛人がいて、
彼女に対する世間の目が非常に冷たかった。こんなタイトルを付けておいて、
その実、ヴィオレッタには裏社交界の猥雑さが全くない。
あるのは貴婦人の優雅さと聖女の優しさ。

加えてその名前。ヴィオレッタとはスミレの花。聖母マリアを表す花はバラ、ユリ、
そしてスミレ。特にスミレはキリスト教の中で最も大切な「謙譲」を表す花
なのだから、ヴェルディったら優しいじゃない。

そいうえば10年前、パリ6区の花屋のウインドウに、掌ほどのスミレの花束を
見付け、その控えめで儚げな美しさに魅せられて、そこから動けなくなったこと
があったっけ。デュマがマリーを見初めた時もこんな感じだったのかしら。

オペラティーの『ヴィオレッタ』には青い矢車草の花弁が入っていて、その色が
ヴィオレッタを思わせる。肺を患っていた彼女が好んだのは香りのない花、椿
だったのだけれど、ヴィオレッタ自身が放った香気はこんな香りだったかも?
なんて想像しながら紅茶を頂くのも一興ですね。


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